酢豚探偵の町中華備忘録 千代田区神保町の巻

4月22日(金)神保町交差点・岩波ホール前正午集合
参加者/北尾トロ、下関マグロ、増山かおり、半澤則吉、あきやまみみこ、濱津和貴、竜超

竜超です。今回は、ちょっと前にトロ、マグロ、竜の3名だけで回った千代田区神保町界隈の再探検である。人数はぐっと増えて総勢7人。しかも隊員番号が1~7まで揃っている。仮面ライダーで言えば1号(本郷猛)からストロンガー(城茂)までの揃い踏みである。

1時間ほど先に現地入りしたボクはあちこちブラブラしたのだが、かつての神保町より明らかにパワーダウンしていて淋しい限り。毎日が本祭り状態だった80~90年代が懐かしい。まぁ、おっさんの繰り言を書いてもせんなきことだが。

正午、岩波ホール前で待ち合わせ。全員揃って歩き出すも、仕事の電話を受けていたトロさんだけはその場に留まって話し続ける。ちょっとサイケなファッションなので、少し離れて見ると70年代おしゃれ情報誌のグラビアのように見える。フォトグラファーである濱津隊員に「かっこいいから撮っときなよ」と進言。けれどもさらに離れて振り返ったら、今度は「急なオファーに悪戦苦闘するAVスカウトマン」としか見えなくなった。こういうこともあるよね。

しかしトロ隊長のことばかりは言えないのであった。集まった7人を見てみれば、周囲から浮きまくってることこの上ない。学生でもないしカタギの勤め人でもない。「どっかの国から家電とか買いに来てる一団と思われるかもよ」と率直な感想を述べると、露骨に不快な顔をされた。

マグロ隊員のマップを手に、店を訪ねてウロウロと。どうしても見つからない1軒があって立ち止まっていたら、「ハロー、ハロー、どこ行きたいの?」とアバンギャルドなコンタクトをしてくるオッサンが若干1名。一同「・・・は?」。「だいじょーぶ、日本人、優しいよ」と続けたので、さっきのジョークがホントになっていることに気付く。嘘から出た真。「あ、ぼくら日本人です」とマグロ隊員が言うと、「なんだよ~」とがっかりするオッサン。

「半澤の帽子が外人ぽいんだよ」とトロさん。「外人にしても爆買いとかできる富裕層じゃないですよね。どっかの寒村から、なけなしの金で生涯一度の贅沢をしにきたお百姓さんたち」とボクが指摘すると、またも露骨にヤな顔をされてしまった。役割を振ると、不満の多い女房(みみこ)、気の弱い亭主(半澤)、その父(トロ)、村の長老(マグロ)、村一番のハイカラ娘(濱津)、添乗員(増山)といったところか。そしてボクは・・・自分じゃよくわかんねーや。

途中、半澤隊員のことを大厚遇してくれる店の前を通る。以前に『散歩の達人』で取り上げたことを感謝してくれていて、顔を出すと下にも置かない大歓迎をしてくれるのだそうだ。『男はつらいよ』で、寅さんのことを「車センセイ」と呼んで敬う旅芸人一座がいたが、あんな感じかな。半澤隊員に「ご両親が上京したら、ここに連れてきたらいい。ああ、ウチの息子はこんなにも出世したのか、と喜んでくれるから」と余計なことを言い、またも冷たい目を向けられてしまった。

さて店選びだ。ボクはずっと前から気になっていた「四川料理 刀削麺 川府(せんふう)」というチャイナに入ることにした。何が気になるかといえば「コスパ」である。表の看板の案内がすごいのだ。

ランチセットの酢豚定食がデザート付きで650円。これだけでも安いが、そこへさらにセルフサービスで「お粥」と「サラダ」と「コーヒーまたは紅茶」が付くのだ。あまりに安すぎるので、どのような代物か確かめたかったのであった。

すずらん通りのサンマルクカフェの2階にある店内は、もう13時過ぎなのにものすごいう活気。複数の個室内に2人掛けから6人掛けまでのテーブルがギッシリ置かれ、客が次々と振り分けられていく。基本は相席。

オーダーを済まし、お粥とサラダを取って戻ったら、もう定食が置かれていた。

セットの内容は酢豚、ライス、卵スープ、細かいザーサイ、杏仁豆腐。酢豚は、タマネギ、ピーマン、赤ピーマン、パインといった布陣。ランチでパイン入りに出会うのは2度目だ。肉はソフトな食感で量は多め。お代わりはできないようだが、サイドメニューが多いので満腹感は得られる。

食べ終わったら、セルフのコーヒーを1杯。看板の写真にはセルフコーナーにフルーツがあったが、ボクが行った時には無かった。12時台を過ぎたからか? とはいえ、650円であのボリュームはすごいよな。客がひっきりなしに入ってくるのもうなずける話である。

食べ終わって、前回と同じ油流し場所(喫茶「古瀬戸」)で、前回と同じメニュー(バニラアイスクリーム)を頼む。ボクより先にトロ隊員がおり、その他の面々も三々五々集ってきた。が、一番早く食べ終わったはずのあきやま隊員が一向に姿を現さない。

「ひょっとすると拉致されたんじゃないか」とマグロ隊員が言い、ボクの脳裏には、トイレの壁がクルッと回転し、海外マフィアに囚われてしまうあきやま隊員の姿が浮かんだ。あとでその店に問い合わせても「さぁ、そんな方は来ませんでいたねえ」と言われてそれっきり。恐ろしさに震えていたら、「すいませーん、ちょっと餃子特集の雑誌を買いに行ってました」とノンキな顔であきやま隊員が登場。ちょっとがっかり。

油流し後、帰途に着く皆と別れて近くの「リットーミュージック」へ。秋に出した本がらみで新聞の取材を受ける。インタビュー後、記者の女性に町中華名刺を渡し、探検隊活動について話す。反応は悪くない感じ。連休明けに再度、撮影込みのインタビューを受ける予定なので、そのときにもういっぺん、夏に刊行予定の町中華共著本を取り上げていただけるようお願いをしてみようと思う。これが話題になるかならぬかで、今後の町中華探検隊の勢いは変わるはずだからね。

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。