酢豚探偵の町中華備忘録 北区王子の巻

3月25日(金)JR「王子駅」北口に正午集合
探検者/北尾トロ、下関マグロ、半澤則吉、濱津和貴、きじまりゅうた、山室賢司、K、竜超


竜超です。今回の探検エリアは「王子」。十条、東十条に続く「北区シリーズ」の第三弾である。ちょうどいま「自分内北区ブーム」が進行中なので気分もウキウキだ。気分だけでなく天気や陽気も良かったので、王子まで歩いて向かうことに。無駄なく行くなら、まずは池袋まで最短コースで向かい、そこから明治通りを進むべきだ。しかし「見慣れた道を行く」というのはイベント感に乏しく、今日のウキウキ感にはそぐわない。というわけで、「できる限り知らない道を歩く」というルールを設定し、行き当たりばったりのウォーキング、まさに「逍遥」と呼ぶにふさわしい散歩に出たのであった。

新宿の自宅を9時過ぎに発って、職安通り経由で大江戸線「東新宿駅」のあたりまで出て、「高度成長期の団地」のオーラを強烈に放つ「都営戸山ハイツ」へ。再開発がやたら進んでいる周囲をよそに、ここだけは「昭和」の光景が色濃く残っており、だからマニアからは「秘境」と呼ばれているのだ。ここに隣接する「戸山公園」には、山手線内で最も標高の高い(といってもわずか44・6mだが)「箱根山」というのがあって、それがいっそう「都会感」を薄れさせている。

戸山エリアを出て「早稲田」へ。例によってブックオフを覗いてから神田川方面へ向かい、「ホテル椿山荘」に隣接する「江戸川公園」へ入る。神田川のほとりは桜並木で、満開の時期には「幽玄」という言葉のピッタリな光景がえんえんと続くのだが、この日はまだ「二分咲き」程度で、持ち前のSっケを発揮する春の「じらしプレイ」が絶賛継続中なのであった。

公園内の階段を昇って「目白通り」に出る。ここまではずっと「知ってる道」ばかりだったので、この先は「できるだけ淋しい住宅街の路地」を選んで歩くことに。といっても、すぐに護国寺エリアの「講談社」付近に出てしまい、またも「歩きなれた街」になってしまった。

とある和菓子屋の前に行列ができていたので、ついふらっと並びそうになるが、「はっ! イカンイカン、これから町中華に行くのだ」と自分に言い聞かせ、先を急ぐ。ちなみに護国寺は、「あしたのジョー」の力石徹や「十代のカリスマ」尾崎豊のファン葬を行なったお寺でもある。

「サンシャイン60」を迂回し、たぶん初めて歩く閑静な住宅街へ入る。小さな祠や、庭先に桜を植えている家があったりして、なかなか趣深い散歩道である。

住宅街を抜け、丸の内線の「新大塚駅」を過ぎ、「六義園」の横を通って、山手線の「駒込駅」に到着。王子駅まであとわずかなのだが、時刻はすでに待ち合わせ時間の15分前。大回り&寄り道をしてきたので、だいぶ時間のロスが生じてしまった。逍遥を泣く泣くあきらめ、ここから地下鉄南北線に乗り、王子駅まで行くことに。

王子駅には11時55分に到着。当たり前だよ、たった2駅の距離なんだもの。北口に出るとマグロ隊員が立っていた。「今日は駆け込みエントリーが多く、何人来るのかイマイチ分からない」という。しばらくするとトロ隊長からLINEが入り、駅の別の場所にいることが判明。「いま北口にいる」と返したら、じきにやって来た。一緒に現れたのは、濱津隊員に、先週の東長崎探検の折に衝撃の出会いを果たしたきじま隊員、同じく新隊員の山室さん、編集者のKさん(←「K」といってもロボット刑事でも、韓国出身のシンガーでもないよ。なんと表記していいのか分からないので、とりあえずイニシャルにしとくのだ)の4名。もうひとり、半澤隊員が後で合流するという。総勢8名と、いつになく大所帯である。昨年末の「堀切菖蒲園攻め」は「大勝負じゃ~! 皆、集結せよ!!」と勢い込んだのに、いざフタを開けたら「計6人」。ままにならぬのが世の中というヤツである。

Kさんは地元の人で一帯の町中華に詳しいというので、今回のナビゲーターを務めていただく。ここもじつは「中密(町中華密集)地帯」で、かなりの時間、かなりの距離を歩く。途中で半澤隊員を待ったこともあって、店を選ぶまでに1時間半ほどもかかった。これは昨年の「錦糸町」に匹敵する長さである。仕事でケツカッチン状態の濱津隊員は途中離脱し、その時点でのお気に入り店に入った。おっさんだけになった探検隊は、北区の桜の名所「飛鳥山公園」にも行ったが、もちろん開花はチョボチョボであった。途中、UFOがメンテナンスを行なう秘密基地を発見し、矢追さんに電話しようと思ったが、番号が分からないので断念す。

最終的にボクが選んだのは「天安門」というチャイナであった。「店内で『民主化』とか言ったら大変なことになりますかね?」とマグロ隊員に聞くと、「それは分かりませんけど、今回の探検リポートは中国からは閲覧できないかも知れませんよ」とニヤニヤ。

マグロ隊員に脅されてドキドキしながら入った「天安門」は、非常に感じの良いお店であった。スタッフは全員あちらの国の方のようだが、ホールのお姉さんは愛想の良い働き者で、なんか「昭和日本のお母さん」みたい。厨房の男性2人もキビキビした感じである。店内は広々していて、4人がけのゆったりしたテーブルが8つ。カウンターはない。ウッディな内装で、ペンションみたいな感じも。ボトルキープされた焼酎が固まった棚もあり、夜は近隣の呑兵衛たちの憩いの場になってるんだろうな、と思った。

頼んだのは言うまでもなく、ランチメニューの「酢豚定食」700円也。肉、タマネギ、ピーマンというシンプルな具材構成である。肉はほどほどのクリスプ感で揚げられており、甘酢餡はケチャップ特有の酸味がなくてまろやか。これにライス、千切りキャベツ、卵スープ、もやしキムチ、杏仁豆腐が付いている。

食べ終わり、油流し用の喫茶店を探し歩くが・・・ない。「あっ、喫茶店!」と思って近づくと、美容院。

「今度こそ喫茶店!」と思って近づくと、またもや美容院。

どうも王子には「喫茶店みたいな美容院」が多いようである。さらに直後、膝から崩れ落ちそうな出来事もあった。

サテン探し中に、今回のリスト外の店を見つけたのだが・・・

店頭のランチメニューにこんなものがあったのだ。

がびーん! く、黒酢酢豚・・・。しかも「ライス・スープおかわり自由」とは・・・。なんか「見合い結婚した直後に運命の相手と出会ってしまった」みたいな話である。不幸中の幸いは「天安門が感じの良い店だったこと」だ。あそこがイヤな店だったら、哀しさは数十倍にも増幅していたであろう。その後、駅北口に戻ってメンバーと合流。半澤隊員が行ったのは「陰気なムードに包まれた『まいう~の正反対』の店」だったそうで、「嘆くな竜超、下には下があるのだ」と我が身の不幸を邪悪なやり方で慰める。

駅の裏にある喫茶店で油流し。Kさんとマグロ隊員も仕事の都合で不参加なので5名で入店。パフェはない店。「夏季限定」の四文字の下に「かき氷」、その下に「コーヒーゼリー」とあった。かき氷が夏季限定なのは分かるが、なんでコーヒーゼリーまで? 念のため訊いてみたらホントに「夏だけ」だという。不思議な店だ・・・。仕方ないのでケーキセットを頼む。トロ隊長はアイスコーヒー、他の3人はホットコーヒー。「コーヒーゼリーが夏季限定なんだったら、冷え冷えのアイスコーヒーも同様にすべきでは?」と思わなくもなかった。

今回が初探検となった2人に感想を聞くが、まだよく分からない部分が多いようだ。そういえばKさんも最初は「みんなで一緒に何軒もハシゴ食べをする」と勘違いしてて、「そんなに何軒も回る自信ないですよ」と語っていたっけ・・・。あと、見かけた店を撮影してグループLINEに載せて「これは町中華でしょうか?」と訊いてきたり、自分がリポートした店について「こんなの町中華じゃない! と先輩方に叱られそうですが・・・」的なことを書いている隊員もいて、まだ町中華の概念がちゃんと伝わっていない模様。いや、町中華探検なんて、そんな敷居の高いモンじゃないですから! こうした現状を総合すると、出版予定の町中華単行本第一弾は、ビギナー向けに徹した「町中華の楽しみ方ガイド」に方向転換した方がいいのかも、と思う。さぁ、どうすっぺ!?

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。