竜超のMCT備忘録 荒川区役所前の巻

12月19日(土)JR日暮里駅前・太田道灌像そば 13:00集合
参加者◎下関マグロ、半澤則吉、竜超

「4人連れで行きたい店があるので、同行者を3名募集。おごりますよ」という呼びかけをマグロ隊員がしたのである。行先は都電荒川線「荒川区役所前」にある「光栄軒」。ちょっと前に「行きませんか」と誘われたが、時間がなくて断ってしまった店だ。他に志願者がいればそっちに譲ろうと思ったが、出てこないようなのでエントリーした。結局ボク以外には半澤隊員しか志願しなかったので、総勢3名での探検となった。

待ち合わせ場所は、JR日暮里駅前にある「太田道灌像」。ボクが太田道灌で思い出すのは、70年代のバラエティ番組『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』である。その中の伊東四朗と小松政夫の母子コントで、伊東かあちゃんが小松バカ息子をなじる際に用いた「お前なんか太田道灌に頼んで江戸城改築の折の人柱にしてもらえばよかったんだ!」というフレーズが妙におかしくて、40年近く経った今でもたまに思い出してクスッと笑ってしまう。まぁ、町中華とは全然関係のない話だが。

列車トラブルで生じたダイヤの乱れのせいで遅れてきた半澤隊員を待って、目的地に出発。徒歩約20分の道のりをブラブラ進むのである。女性客で賑わう日暮里繊維街を過ぎて、襟裳岬の春のように「何もない」住宅街を抜けると、目の前に明治通りが出現した。目指す光栄軒は、それを渡ってすぐの場所にあるという。マグロ隊員の指さす先に、それらしき看板が見えたよ。

光栄軒は一見すると何の変哲もない町中華である。しかし土曜日の13:30過ぎなのに行列ができている。確かに人気店らしい。MCTは基本、「平日のランチタイム終了後に入店する」というスタイルなので、並んで入店待ちをするのは初の体験である。見れば、列の先には小柄なお婆ちゃんがいる。マグロ隊員によれば、ここは「大盛りの聖地」だそうだが、なぜそんなところにお婆ちゃんが? ひょっとすると、戦後の混乱期に日本初の女フードファイターとして活躍した「ウワバミお熊」とかかも知れないので油断はならないぜ。

そこそこ待って、ようやく店内に入れた。時刻は14:00チョイ。入ってすぐ目に飛び込んできたのが、体育会の学生とおぼしき3人組が食っていた「炒飯」であった。おそらく大盛りだろうと思われるが、それは「山」だ。子どもが砂場で作る「砂山」のような大きさなのだ。うむむむ、これは聞きしに勝る凄さである。今日は「昼呑み」もする予定なのだが、マグロ隊員によれば、この店は「お通しのボリュームもスゴイ」のだという。「じゃあ、ひょっとすると、あの炒飯が出てくるかも知れないんですね?」と冗談半分で訊くと、「ないとは言い切れません」とニヤリ。ホントかよ。

だが、サワーに続いて現れたお通しを見たボクと半澤隊員は、驚きすぎて笑ってしまった。それはお通しの概念をはるかに超えた「かた焼きそば」であった。しかも普通の店なら「大盛り」に相当する量だ。おまけに美味いよ。ここは確かに「聖地」の名にふさわしい店かも知れない。

お通しの凄さに度肝を抜かれたボクらは、様子見をしながらオーダーすることにした。1品目は、ボクの研究テーマである「酢豚」。それから「炒飯」。いや、もちろん「普通盛り」のね。それから半澤隊員リクエストの「あんかけそば」である。出来上がるのを待つ間、例のお婆ちゃんのテーブルをチラリと見た。するとそこには、ブラックホールのごとき勢いで何皿もの大盛り炒飯を秒殺していくウワバミお熊の姿が! ……とかだったら面白いのだが、残念ながらお婆ちゃんは息子夫婦や孫たちと仲良く分け合ってフツーに食っていたのであった。ほのぼの。

くだらない妄想をしているうちにメニューが揃っていった。酢豚は肉がたっぷりで、肉族であるボクも大満足。いや、「主役」であるはずの豚肉が「通行人のエキストラ」くらいしか入ってない「名ばかり酢豚」というのが世間には結構あんのよ。

あんかけそばも、かかっている野菜あんが最初は「半固体」と言っていいような状態だったのが徐々に緩んできて、味と一緒に「食感の変化」も楽しめた。

そして例のチャーハンは、「普通盛り」のはずなのに、一般店の軽く2~3倍はあった。どの位のボリュームかは画像でご確認ください。ハイライトの代理の半澤隊員は80年代生まれの若手なので、悔しいが60年代人のボクらより顔が小さめなので、よりスゴイ量に見えますよ。

こちらのチャーハンは「焼き飯」というより「ピラフ」っぽい感じで、あまり油っぽくなくてスルスル入る。なるほど、これなら大盛りもイケるかも知れない。あ、いや、「1人で」じゃないよ。「3人なら」です。ちなみに最初にボクの目を惹いた体育会グループは、1人が完食を断念し、仲間から「おまえ、デブのプライドは無いのかよ!?」と、イマイチ意味の分からない叱責をされていた。う~ん、「デブというのはプライドを持ってなるもの」なのだろうか?

全部平らげてもまだいくらか胃袋に余裕があったので、追加で「棒棒鶏」をオーダー。と、これも僕たちの概念を打ち破るボリュームで、棒棒鶏というより「鶏肉たっぷり冷やし中華」から麺を抜いたようなものだった。酢の程よく効いたタレが美味しく、あっという間に無くなってしまったよ。

こんなに満足度が高いのに、お会計は「サワー4杯」を含んでも1人あたり1500円程度。うわ~、近場だったら週3で来るよ最低でも。しまった、今年の「町中華ベスト3」を出すのが早すぎた。これは早急に書き換えないとなぁ……。

帰りは腹ごなしの意味も込めて、また日暮里まで歩く。日暮里では、今年の「油流し大賞」にボクが選んだ「ニュートーキョー」のフルーツパフェをパクリ! うん、こっちは不動の美味しさだわ。

う~ん、「光栄軒→ニュートーキョー」というのは、今後の黄金ラインになるかも知れんな。ちゅうことで、マグロ隊員、どうも御馳走様でした! 良い店に案内してくれてありがとうございます!!

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。