幸來@稲荷町 ランチセット

未明からの雪が、朝には止むと予報で入っていたが、
雪から雨にかわり、昼まで降り続いていた。
家の一階にある幸来さん。
上から見ると、なんと行列。
傘をさして並んでいる。
すごいな。
12時45分に、いっきに客が出ていき、
下まで降りる。
客は誰もいない。
店のおやじさんがひとり、疲れた顔をして座っていた。
「並んでましたね」と言うと、
「そうだよ、ありがたいねぇ」と言う。
ランチセットを注文。
いつも自転車で根岸からここ北上野までやってくるおやじさん、
きょうはどうしたのか聞けば、
「電車できたよ。三ノ輪から一駅乗って」
入谷から歩き。
「20分かかっちゃった」とのこと。
たいてい、ご飯ものサラダ、麺の三点。
きょうはあんかけ野菜ラーメンで、体が温まる。
そういえば、以前は黄色い自転車で通っていたけれど、
それが今は黒い自転車に変わった。
理由を聞いたら、
「盗まれたんだよ」
とのこと。普段はカギをかけて、店の前に置いておくのだけれど、
その日、ちょっとだけ、カギをかけずに買い物をして、
戻ってきたらもうなかったんだそうだ。
そして「最近、ばとうのおやじに会った?」
と聞かれる。会ってないなぁ。
近所の立ち食いそばのお店、
昨年閉店して以来、
おやじさんは、ばとうのことを話題にする。
僕が取材したわけではないが、
「ばとう」が掲載されていた立ち食いそばの本をおやじさんに渡したことで、
おやじさんの頭の中は僕とばとうが結びついているようだ。
僕は一回食べに行っただけなので、
よくわからないのだが、他に話題もないので、
仕方がない。
と、バタバタとお客さんがやってきた。
午後1時をまわると、またお客でいっぱいになる。
ひとりの客が入るなり「チャンポン」とひとこと。
どうやら、この人は出前でもチャンポンをたのむのだそうだ。
会計のときに、チラッとチャンポンを見ると、
たまごのあんかけになっている。
うまそうだ、今度はチャンポンにしよう。
会計を済ませ、表に出て、ふと看板を見れば
「幸來」になっていることに気づいた。

■幸來
台東区北上野2-3-1

ABOUT ME
下関マグロ
下関マグロ(しものせき・まぐろ) 1958年、山口県下関市生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社勤務を経てフリーに。北尾トロ、竜超と共著で『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(角川文庫)。CSテレ朝チャンネル『ぶらぶら町中華』にトロと出演中。