1万歩あるいて半チャンセット@王子「栄楽」

王子アタック。というような書き方をするときは、そのエリアにある町中華をしらみつぶしに見て歩き、おのおの気になる店に突入する場合が多く、どうしても選んだ店のリポートが中心になるのだけれど、アタックのいいところはぞろぞろと散歩することによってその町の雰囲気がわかるところにある。ぼくは王子、飛鳥山公園に花見にきたことがあるくらいでロクに知らなかったが、想像以上に大きな町だったので驚いた。町中華もたくさんある。10軒ほどは見て回っただろうか。
個人商店が元気な町はそれだけで好きになる。元気でいられるのは店を支える客がいるからで、大型スーパーやチェーン飲食店より個人商店を選ぶ客層が健在であることの証明だ。でね、そういう姿勢というか、その町に馴染んだ店が点在することによって風景に魅力が増し、歩くのも楽しくなるのだ。
歩数計が8000に達した頃、やっと店を決めた。駅から10分ほど離れた場所にあるポツン店「栄楽」。立ち姿にしびれ、ここしかないと思ったんだ。
濱津、マグロ、半澤、竜隊員は他の店へ行き、山室、きじま隊員と3人で入店。カウンターと2人掛けテーブル席が3つの小さな店である。ご主人と(たぶん)奥さんのふたりでやっているようだ。ふたりとも寡黙で店内は静かだが、いかにも町中華らしい内装や、可もなく不可もない料理につい嬉しくなってはしゃいでしまう。
「栄楽」は創業35年だという。1981年あたりか。この年代は、高度成長期に開業した店の代替わりと新規参入で、町中華の店舗数が戦後最大になる頃だと思われる。我々が行く店は、創業50年クラスと30~40年のところが多いのはそのためだろう。
もっといろいろ聞きたいが無口なふたりにどう訊ねてよいかわからず、食べることに専念した。
途中、入ってきたオヤジが「ラーメン!」と叫んで席に着き、ものの数分で出てきたラーメン(480円)をあっという間に完食してサッと代金を払ってでていった。無駄のない動きと素早い食べっぷり。慣れてるとしか言えずカッコ良い。ソロ活動の所作、手本を見せつけられた。
駅に戻ると集合時間から2時間経過したところ。歩数計は1万歩に達していた。
(2016.3.25)

ABOUT ME
北尾トロ
北尾トロ(きたお・とろ) 1958年、福岡県生まれ。法政大学卒業。裁判傍聴、古書店、狩猟など、体験をベースに執筆するライター。『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『猟師になりたい!』シリーズなど著書多数。長野県松本市在住。