酢豚探偵の町中華備忘録 千代田区神田神保町の巻

2月5日(金) 東京メトロ半蔵門線「神保町駅」出口付近 13時集合
探検者/北尾トロ、下関マグロ、竜超


竜超です。今回は「別件ありき」のイレギュラーな町中華探検なのである。

待ち合わせ場所である神保町交差点の書店前にマグロ隊員は数分前、トロ隊長はジャストに現れる。聞けばトロ隊長、付近での歯科治療が9時半に終わってしまい、暇を持て余していたのだとか。トロ隊長ほどではないがボクも例によって早めに現地入りし、神保町散歩を楽しんでいた。

「三省堂書店」の1階で「手彫りハンコ」のブースが出ていたので、「竜」と彫ってもらった。ちょうど落款(らっかん)が欲しかったところだったのでグッドタイミング。彫り込むのはひとつひとつ表情が異なる天然石だし、字もフォントではない肉筆文字なので、「まったく同じものはこの世に2つとない」わけだ。大量生産時代にこのカスタマイズ感は嬉しい限りだね。

ぶらぶらと神保町の町中華探検に出発。この界隈、表通りにはチャイナが多く、しかもビックリするほどのコスパの良さ! 町中華はもっぱら裏通りに点在している。数軒チェックした後、半沢隊員オススメの「康楽」という店に入る。「すずらん通り」から一本入った路地にあるこの店は、半沢隊員が雑誌『散歩の達人』で以前に紹介したところで、店頭には記事のカラーコピーが貼られていた。

こじんまりとした店舗は、1階に厨房とカウンター席、2階にテーブル席という造り。入店時、上はまだ満杯だということで、カウンターに座って待つ。ボクは店名を冠した「康楽定食」、マグロ隊員は「康楽丼」、トロ隊長はタンメンに半炒飯がついた定食をオーダー。「あれ、酢豚じゃないの?」と思われるだろうが、この店には単品でお高い「ごちそう酢豚」しかないし、今週は火曜・水曜と酢豚定食を食ったので、久々に酢豚以外を頼んだ次第。

しばらくすると2階が空いたので移動。上には、見るからに働き者といった感じの「おかみさん」がいた。「奥さん」より「おかみさん」という呼び名がシックリくる人である。フロア全体を機敏に仕切りながらも、常連客とのコミュニケーションも如才なくこなす、愛想のいいおばさんだ。


やがて料理がやって来た。「康楽定食」は、千切りキャベツがたっぷり添えられた肉野菜炒めとライス、中華スープのセットなり。肉野菜炒めはそのまま食べると辛さが先に立つ感じだが、テーブルにでんと置かれた特大マヨネーズをたっぷりかけると、グッとまろやかな味わいになる。


帰り際、おかみさんに「こちらはどれくらい営業してるんですか?」と訊くと「50年」とのこと。嬉しそうに『散歩の達人』に紹介された話をしたので、トロ隊長が「それを書いたやつ、知り合いなんですよ」というと、「あらー、そうですか、まぁまぁ」と一気に相好が崩れた。「ほんとに良く書いてくださって、お礼状を出そうかと思ってたくらいなんですよ」とおかみさんは言い、ボクらと一緒に下まで降りてきて、厨房の家族に「ねえ、こちら、半澤さんのお知り合いなんですって」と。わざわざ外まで出て見送ってくれたので、記事になったことを心底喜んでいるのだろう。半澤隊員も執筆者冥利に尽きるというものだ。

すずらん通りに戻り、油流し用の喫茶店を探していると、不意に後ろから「イトーヒデキ!」と、トロ隊長を本名で鋭く呼ぶ声が。「うわっ、K原の次はK尾か! 薬物汚染の波は、ついに球界から町中華界へ・・・」と思い、早くも記者会見の謝罪コメントを練りかけたが、声の主は麻薬取締官ではなくトロ&マグロ両氏の若い頃の友人だった。

その人も交えて、「日本文芸社」の入ったビルにある喫茶「古瀬戸」へ。外から見ると狭そうだが、中はかなり広い店である。想像してた面積の「8倍」はゆうにある。店内には色鮮やかな壁画が描かれていて、後でネットで調べたら「城戸真亜子」の作なのだという。「城戸真亜子か・・・。そういや『スケバン刑事II』に一瞬だけ出てたなぁ・・・」と、ものすごくどうでもいいことを思う。

15時10分前に店を出て、近くのインテリジェントビル内にある出版社「立東舎」へ。今日の神保町詣はここの訪問するためのものだったのだ。目的はズバリ「町中華単行本の出版打ち合わせ」である。担当編集氏とその上司の方を交え、5人でミーティング。トロ隊長は「絶対に譲れない条件」についての再確認を。スケジュール調整をした結果、どうやら出版時期は「初夏」くらいになりそうだ。

帰り際、立東舎が新たに設立したという「立東文庫」の話が。刊行中の数冊を出し、「気になるモノがあったらお持ち帰りください」と言ってくださったので、トロ隊長は松本隆の『微熱少年』、ボクは『なめ猫』をいただく。

JR御茶ノ水駅まで歩いて解散。ミーティングで頭を使ったせいか、なんか甘いものが食べたくなる。「カステラ」とか。だが、最寄駅から自宅まではイイ店がなく、遠回りするのもメンドクサイので、モヤモヤしながらも帰宅。ポストを見たら、ネット注文した『なんたって「ショージ君」 東海林さだお入門』 (文春文庫)が届いていたのだが・・・。


なんだこの分厚さは!? カステラだカステラ!
ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。