MCT@築地 生駒軒 竜超

大雨の中、予定通りに集合した「町中華探検隊(MCT)」の面々。今回のメンバーは、トロ隊長、マグロ隊員、増山隊員、ボク、そして新加入で今回が初探検となるあきやまみみこ、濱津和貴の6名である。
場所は築地。人気観光スポットとして外国人観光客も数多い「築地市場」界隈の町中華を探るのだ。
このあたりは小さな飲食店が密集しているエリアなので、いつものように、全員でひとつのテーブルを囲んで、ということはできない。そこで、3組に分散し、それぞれが気になる店をあたる、という初めてのスタイルになった。
MCTでは「定食」を担当するボクは、4店の候補の中から、「本日の日替わり定食」の案内書きが唯一あった「生駒軒」を選んだ。トロ隊長もここをセレクトしたので、2名での探検となった。
生駒軒
 
生駒軒は、4店の中でただひとつ「場外市場の場外」なのだ。純粋なる町中華なので観光客など一切おらず、ランチタイムの店内は近隣で働く人々で占められていた。
予想外だったのは、定食の種類がものすごく少なかったことだ。「××定食」とあるのは日替わりのA定食、B定食だけだったので、ボクはBの「八宝菜定食」(980円)を頼んだ。
やがてメニューが運ばれてきたが、その色味を見て、ボクは一瞬ひるんだ。「八宝菜=無色なタレ」というイメージだったのだが、ここのは茶色くて、「……あれ? 回鍋肉(ホイコーロー)と間違ってる?」と思ったのだ。
けれども具材を見れば確かに八宝菜で、どうやら間違ってはいないようだ。しかし食べたら、やっぱり回鍋肉ぽい味。ボクは以前、マグロ隊員から聞いた「チャンポンを食べたことのないチャンポン」のことを思い出した(あとで聞いたら、八宝菜というのは店ごとにテイストがかなり異なるメニューなんだそうだ)。
八宝菜
 
味は家庭料理ぽい感じで、町中華としては及第点だろうと思った。ただ、トロ隊長がMCT発足の動機として挙げている「絶滅危惧店舗の記録」というあたりからはちょっとズレている気が……。ホールのおばちゃんも厨房のおっちゃんらもかなり元気そうで、多分あと20年は大丈夫そうなのだ。
前回行った谷中界隈は「早く行っておかねば!」と思わされる店が多かった(というか、すでに間に合わなかったところもあった……)ので、そちらに比べると緊急性は希薄だ。ちょっと店舗セレクトを誤ったかな、と思った(いや、お店が元気なのは良いことなんですけどね)。
しかし、「店舗セレクトを誤った」と本気で後悔したのは、ファミレスで行われた報告会の場でのことだった。
増山、あきやま、濱津の女性チームが行った「幸軒」のメニュー画像を見せてもらったら、そこに映っていた「盛り合わせライス」というやつがものすんごくボク好みだったのだ。
彼女らによると、その内容は「ぶあつい自家製チャーシュー3枚」「シューマイ2個」「大盛りライス」「ネギたっぷりスープ」「刻みコンブの小皿」「山盛りしらす」なのだという。何これ、完全に定食じゃーん! この充実度で850円で、ボクの回鍋肉……もとい八宝菜より100円以上も安いのだ。
定食
 
まぁ、生駒軒の定食には「わかめスープ」「ザーサイ」「シソ風味の大根漬け」「ヤマイモの小鉢」がついていて、なかなかの充実度だったのだが(これらはメイン料理にライスをつけると自動的についてくるみたいで、だから「××定食」といったメニューが少ないのだ)、しかしボクは「自家製チャーシュー」という響きにメチャクチャ弱いのだ。
今回は、ボクの完敗である。「定食家」を自称し、「定食」という呼称にこだわりすぎるあまり、その表示の見当たらない店を機械的に外してしまったのだが、それが大きな間違いだった。おそらくは「定食」と表記されてない店にも「定食に相当するメニュー」はあって、訊けば教えてくれるのである。
要するに、「定食」の表記があるか無いかではなく、「店の雰囲気」のみを見て判断すれば良かったのだ。「考えるな、感じろ」ってことなのね。
策士、策に溺れる。定食家、定食表記に惑わされる。
今回の失敗を無駄にせず、次回以降に活かそうと誓った竜超なのであった。
それプラス、幸軒の「盛り合わせライス」制覇も誓ったね。
(竜超) 
ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。