最後の一軒

疲れていた。今日は好天の中一万六千歩あるきまわって働いたのだ。帰りの車内では最後の数駅、意識がなかった。今夜の宿は義母の家だ。所沢駅から暗い道を進んでいたら、ラーメンの文字。ああ、夕食がまだだったな。ここを逃すと店は一軒もない。初めてドアをあけた。先客は3人。半チャンセットをオーダーしカウンターに座ると、ほどなく出来上がる。太めのストレート麺。炒飯はいろどりが美しい。だが味にはさしたる特徴がない。スープがしょっぱい。このスープが疲れたからだに沁みた。普段なら顔をしかめるしょっぱさを今日のからだが求めているようだった。腹は途中からキツくなったけど。所沢東口「大八」のひとり飯である。
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北尾トロ
北尾トロ(きたお・とろ) 1958年、福岡県生まれ。法政大学卒業。裁判傍聴、古書店、狩猟など、体験をベースに執筆するライター。『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『猟師になりたい!』シリーズなど著書多数。長野県松本市在住。