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世はGWまっただなかだが
半澤は仕事。たまたま行った、東急東横線学芸大前駅の周辺で良店を探す。
取材先は駅より徒歩6分くらいあるから
用事がないと、行かないだろうという地域。五本木。
飲食店もまばらになり駒沢通りがスラリと伸びていて
町中華の気配はほぼなかったのだけど
本当に運良く、横断歩道の向こうにそれらしい店を発見。
本場の味 中国料理 海新山 しかも「古代中国料理」と書いてある。
こりゃそれらしい、ではないな。
奇跡の店と呼ぼう。入店してすぐ、そう思う。ぞくっとした。
奇跡の店、と大仰なものいいになったのにはいくつか理由があるが
テキストで語る前にまず画像を。その凄みを味わっていただきたい。
店内に照明はなく(照明器具はあるのだろうが、点けていなかった)自然光のみ。
その光もたっぷり、という印象はなく
かなり薄暗い。
思わず、「やってますか?」
と聞いてしまう。
おかみさん、厨房からでてきて「やってるよ、ラーメンと餃子だけ!」
と言い放ち、また厨房に消える。
メニューはラーメン 塩・味噌(1000円)
上々ラーメン 醤油 塩・味噌((1500円)
餃子(400円)のみ
どうやらいずれも「コラーゲン」たっぷりをウリとしているらしい。
「ラーメン」よりコラーゲン量が多く、レモントッピングがあるのが「上々ラーメン」。パヒューム、いやパフュームほか、多くの芸能人がこの上々ラーメン目当てにやってきているのだ。
それにしてもこの強気な価格。
情けないが半澤は完全にひるんでしまい、普通のラーメンの塩を頼む。
それだって1000円だ。
コラーゲンが入っているだけあって
塩味なのにけっこう白濁、とろりとした印象のスープ。
驚いたのはその味だ。
これはここでしか食べられないだろう。
独特の滋味深さもあるけれど、しっかり美味しい。
あっさり系ではあるもののコクがある。
やはりコラーゲンの力だろうか。
普通の塩ラーメンとはまるで趣が違うのに、誰もが美味しいと思えるクオリティだった。
トッピングはチャーシュー、のり、三つ葉、ネギ
三つ葉というのが面白い。シャキシャキ感と香りが
よいアクセントとなる。
麺は固め、量は少ないが食べ応えがあった。
さいしょはなぜかピリッとしていたおかみさんだけど、僕が食べ始めるとコラーゲンについてアピール。
鶏や豚、魚介類などから抽出したコラーゲンが
スープにたくさん(だいたい70パーセントと彼女は言っていた)入っているのだそう。
写真は撮れず残念だったが、
ボウルに入ったプルプルのコラーゲンを見せてくれた。(2回も)
店内には至る所に
「スープは全て飲んでください」の文字。
うまいから、というのもあるが、栄養たっぷりだから、ということみたい。
さすがこれが中国古代料理というわけか。
薄暗い店内には、結局以後、ほかの客は来なかった。
「昔はね、いろんな料理やってたのよ。お客も多かったし」
と少ししおらしく語り始めるおかみ。気づけばそんなムードに。
「ラーメンもこんな値段じゃなかったんだから」
なるほど、ここでガッテンがいく。
というのは店内のサインに「オムライス」の文字を認めていたからだ。
以前はほかメニューも展開していた町中華だったのだろう。
そして邪推だが、これは完全なる未亡人中華。
旦那さんもお元気でさまざまな料理を提供していたのだろう。
それにしてもメニューをしぼり、しかも高級路線に切り替えて
今尚健在、というのが実に格好よい。
町中華が時代に抗えなかったもの、が透けて見える一方で
時代の変遷を経ても、向かい風の中でも屹立して見せる、町中華ゆえの強さも感じられるのだった。
帰路、東急東横線の車内で
さっそく海新山について検索する。
そしてある記事に、こうあるのを発見してしまった。
「オムライスは予約しないと食べられない」
つまり、オムライスは今もまだ食べられるのだ。
これは行かないとならないでしょう。要予約だ。
帰りがけにおかみさんが言っていたひとことが
今、こうやってキーボードを打っていても思い出される。
「自分が食べたくて、やっているようなものだからね」
痺れるわ。
文/半澤則吉