酢豚探偵の町中華備忘録 新宿区曙橋の巻

3月1日(火) 曙橋『餃子の星』前17時集合
探検者/半澤則吉、あきやまみみこ、濱津和貴、みけら、竜超


竜超です。外部の人はほとんど知らないであろうが、町中華探検隊には「グループ内グループ」というのが存在する。それは「おニャン子クラブ」における「うしろ髪ひかれ隊」(工藤静香が所属)、「桜っ子クラブさくら組」における「KEY WEST CLUB」(中谷美紀が所属)、「乙女塾」における「ribbon」(永作博美が所属)のようなものである。喩(たと)えが全部「20世紀アイドル」なのはオッサンだからだ目をつむれ。

今回は、町中華探検隊のグループ内グループ「昼呑み隊」の初の集まりなのであった。これはボクが言い出しっぺの「昼間っからダラダラ酒飲もうよ」というコンセプトの退廃的集団なのだが、町中華メンバーは昼間っからダラダラ酒飲むような退廃的人種が少ないのか、単にボクが嫌われてるだけなのか、ずっと開けないまんまでいた。ようやく今回初開催できたわけだが、「17時スタート」ということで、あまり退廃的ではなくて残念なり。

今回は「一店ピンポイント探検」なので、待ち合わせは店の前に直接。目指すは新宿区・曙橋にあるチャイナ『餃子の星』である。ちなみに「曙橋」というのは地名ではなく最寄の駅名で、住所表記は「富久町」。余談だが、店から徒歩「10歩」の並びにあるワンルームマンションに、ボクは5年弱ほど住んでいた。あと、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の舞台である町中華「幸楽」の所在地は架空の住所「新宿区曙橋」である。

17時過ぎに集ったメンバーは、あきやまみみこ、濱津和貴、みけら、そしてボク。みけらさんはこれまでソロ活動オンリーで誰も会ったことがなかったので「架空の人物では?」というウワサがあった。面識があるのは唯一、勧誘したマグロ隊員だけだったので「マグロさんの捏造キャラクター」もしくは「マグロさんの別人格」ではなかろうかと言われていたのだ。「24人のビリー・ミリガン」ならぬ「2人の下関マグロ」である。

そんなわけで、「はじめまして、みけらです」と言いながら女装したマグロ隊員が現れても優しくしてあげようね、「はじめまして、あきやまです」「はじめまして、濱津です」と気づかぬフリで迎えてあげようじゃないか、と事前に話していたのだが、「はじめまして、みけらです」と現れたのは正真正銘の女性だったので一同「ホッ」。

世間一般では「とりあえずビール」だが、ボクの場合は「とりあえず酢豚」である。じつはここへ来たのはマグロ隊員の推薦店だったからで、昨年夏にスブヤの・・・もとい渋谷の「仙台や」の絶品酢豚に出会って浮かれてたボクに、ニヤニヤしながら彼が言ったのだ。「酢豚について語りたいなら、『餃子の星』に行っとかなくちゃダメですよ。語るのはそれから」。そう言われて悔しかったので、その後いっぺんランチタイムに行ったのだが、「酢豚は夜だけのメニュー」ということで食べられなかった。で、今回のリベンジに至った次第である。

ウワサの酢豚は、まっくろくろすけ出ておいで~♪ 的な「まっくろ黒酢」で、しかもフレンチ風の小洒落た盛られ方。なんと「ナイフとフォーク付き」である! けれどもナイフもフォークも不要な柔らかさで、箸で突けばホロホロ崩れる。味も素晴らしく、「抽出された黒酢の美味成分だけが口いっぱいに広がってくる感じ」だ。・・・う、うめぇ! これには全員たちまち魅了され、3時間半ほどの在店中に計3皿も頼んでしまったよ。もちろん全て「瞬食」である。

入っている野菜は「タマネギ」と「レンコン」だけだがこのラインナップが絶妙で、これ以外が入っていたらたぶん味のハーモニーが台無しになるだろう。肉の柔らかさと対照的なサクサクとした歯ごたえもイイ! ひと口食べるたびに幸せな気分になってくるよ。

・・・ただし、である。これを「酢豚」と呼ぶのにはちょっと無理がある。確かに「酢」と「豚肉」を使っているので「広義の酢豚」ではあろうが、ありていに言うなら「黒酢を使った豚の角煮」なんである。でも味はホントに素晴らしいので「一食の価値はある」と断言しておこう。ボクのような肉族ならば感涙モノだよ。

それにしてもよく食った! よく呑んだ! よく語った! 1時間遅れで半澤隊員が合流してからはいっそう盛り上がり、くだらないことやアホらしいことやしょーもないこと(つまり全部意味のないこと)をゲラゲラ笑いながら話した。

みみこさんがウップンのたまった顔で「最近の松ちゃんに不満!」と言いだしたが、それはつまり「予定調和の破壊者」であったはずの松本人志が「円滑な司会進行に協力的になってしまった」ことへの反発であるらしい。さすがは30年来のダウンタウンファンである。なんせ関西ローカルの『4時ですよーだ』から追っかけてる(番組観覧もした)そうなんだから、にわかファンごときの叶うもんじゃない。ちなみにみみこさんは町中華探検隊の「餃子リサーチャー」として、水餃子を除く全餃子を制覇していた。水餃子は「頼み忘れていた」そうだが、それはまぁ次回の課題として。

あと、みけらさんが昔、自称・良識派の主婦から「あんな不謹慎な人間にやらせていいのか!?」と言いがかりをつけられて大きな仕事をフイにされた、という話も飛び出した。それに対して「不謹慎で何が悪い! いっそ開き直って『不謹慎かずえ』と改名しろ! フクヤマみたいな男と出会えるかもしれんぞ!」と、酔いに任せてワケわからんアドバイスをした男が若干1名いたのだが、さて誰でしょう?

しかしチャイナは安いなぁ。食べたいもの、呑みたいものは次から次に頼み、紹興酒だってボトルで2本とったのに、勘定は5人で割って1人あたま3500円くらい。「本式に『チャイナ研究会』も作ろうか」という話が出たのも当然の流れである。この店は「昼呑み隊御用達店」としてまた行こう。広いので「町中華探検隊ファンの集い」とかやってもいいかも知れん。まぁ、チャイナなんだけどね。

追伸。みけらさんから「不謹慎と言われたのは自分でなくて、組んでたイラストレーターです」とのメッセージが。まぁ、何はともあれ不謹慎は素敵です。ボクも町中華探検隊で唯一無二の不謹慎リポートを書き続けまする。

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。