もりや@早稲田

自分でも不思議なのだけれど、早稲田に住んでいたのにもかかわらず、スルーしていたお店がいくつかあったことだ。たとえば、この「もりや」さん。
夏目坂にあるこのお店、ずっと普通の食堂かと思ってました。よく見れば、町中華じゃないですかぁ。
のれんのかんじが町中華ぽくないのか。

なぜ、このお店に来なかったんだろか、あれこれ考えて、思いついたのは、夏目坂の下に「秀永」という町中華の名店があったから、ここまで坂をのぼってこなかったのかもしれない。その名店、秀永さんも今はもうない。

先日、その存在に気づき、愕然。というわけで、これは行かねばと訪問を決意。

時刻は午後1時過ぎ。思い切って入店。あれれ。町中華では初めて。先客がすべて女性だ。清潔な店内はカウンターが9席。こあがりがあって、そこにテーブル席がいくつかある。カウンターの真ん中あたりで食べていた女性が、食べ終え、会計をしている。座敷席には、女性2人が2組。

カウンターの中には、中年のご婦人とそれより若い女性。こちらの2名がフロア担当で、コック服を着た男性が2名が調理担当のようだ。かなり年配の方と中年の男性。

なんにしようか。広東麺がいいかな。北尾トロは、その店の実力をはかるのは、中華丼だという。僕も同意だが、だったら、広東麺でもいいかな。たいていのお店は中華丼と広東麺、上にかかっている餡は同じだったりする。注文したあとで気がついたが、裏にもメニューがあった。

セットメニューで、ラーメンにプラスしてカレーやチャーハンもあった。それでもよかったかな。壁の貼紙を見ると、きょうのサービス品のなかにはタンメンがあって、これは通常650円のところ600円だそうだ。しまった、そっちだったか。なんて思っているうちに広東麺が到着。

お店の方に写真を撮っていいか聞いたら、えっ、と聞き返された。ダメなのかと思ったら、OKの返事。あまり、聞かれなれていないのか。
ああ、なるほど。野菜などはこまかく切られている。先日うかがった荒川区役所前の光栄軒さんなどは大きく切られていたけれど、それとは対照的。スープも、コクがあるけれど、しつこくはない、上品なお味だ。
麺も、細めのストレートでなかなかおいしい。量はたいしてないと思ったが、意外に丼が深く、量はそこそこあった。
食べている途中、新しい客が入ってきた。中年男性だ。なんだかホッとする。カウンターに座る前、座敷の女性2名に軽く挨拶。みなさん知り合いなのか。お店の方が「きょうは、豚汁定食ありますよ」と声をかける。「じゃ、それ」と注文。常連さんで支えられているお店だ。
「また、人身事故だって」テレビを見て男性が言う。「年末になると多いですね」と女将が答える。テレビに目を向ければ、NHKがかかっている。仲里依紗が映っていた。テロップで電車の遅れが伝えられている。
会計のとき、よかったらどうぞ、と飴が入ったバスケットを指さされる。ああ、うれしいサービス。こういう細やかなサービスが女性に受けているのだろうか。もうこちらで長いのか聞けば、少し間を置き、「主人の親の代からですから50年以上になります」と女将。「おいしかったですよ、またきますね」と告げると、深々とお辞儀をされた。

なぜ、早稲田に住んでいるときにこの店にこなかったのかと少し後悔。早稲田通りまで戻り、神楽坂駅まで歩くことにした。もうひとつ、存在は知っているけど、行かなかった店を見るためだ。榎町にある五芳斉を見るためだ。

実は、早稲田に住んでいるとき、神楽坂の龍朋へよく行っていたのだけれど、そのとちゅうにあったこちら、何度か入ろうかと前まで行くのだが、どういうわけだか、入店しなかったお店。次はここもこよう。

ABOUT ME
下関マグロ
下関マグロ(しものせき・まぐろ) 1958年、山口県下関市生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社勤務を経てフリーに。北尾トロ、竜超と共著で『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(角川文庫)。CSテレ朝チャンネル『ぶらぶら町中華』にトロと出演中。