北尾トロ氏の引越しを手伝いに行った(というか、突発的にお邪魔してしまった)際に、「町中華探検隊」の話を聞いた。誰でも参加していいというので、5月11日、参加した。
赤い看板に赤いのれん、店内に入るとテーブルも真っ赤。「お手本のような町中華」とマグロ氏は評していたが、まさにその通り。映画のセットにでも使えそうなぐらい、昔ながらの中華食堂という雰囲気だ。店名は「なりみつ」と読むらしい。
サッシの引き戸を開けて店内に入る。カウンターに座ろうとしたら、店のおばちゃんが「テーブルどうぞ、この時間だから」と勧めてくれて優しい。
注文は決めていた。「はい何しましょ」。中高年女性特有の程よく枯れたダミ声で聞かれた。すかさず「タンメンで」と答える。
待ちながら店内を見渡した。ピークタイムは過ぎていたが、十数人の客が入っていた。全員男性。それもネクタイ率が結構高い。クールビズ全盛のこの世の中で、なぜこの店だけ…。昭和ビズなおっさんリーマンが、町中華にはやはり似合う。
テーブルの上のしょうゆ差しはかなり年季が入っており、フタの塗料が剥げ気味でワビサビの情緒すら感じる。ような気もする。
間も無くタンメン登場。具は白菜中心で、クタッとしている。私はタンメンというとパリっと炒めたキャベツが好きなのだが、ここはそういうタイプではない。スープは薄味、麺は柔らかめ。全体的に、パンチが乏しい。でも落ち着く味だ。うまいかまずいかと聞かれたら、「うん、おいしいよ」と答えるが、他人に勧めたくなるほどものすごくうまい!!と言えるかどうかは…うーん、どうだろ。
コスパだなんだと言い始めたら、恐らく日高屋のほうがコスパは良い。じゃあ何のために町中華でタンメンを食うのか。そこそこの値段でそれなりに美味しいタンメンが食べたければ、日高屋で十分なのだ。ではなぜ人は、いや私は…。
個性、唯一性、長い歴史等々、言葉にするとつまらなくなってしまうが、やっぱりそういうことなのだろうか。
ブログを書くつもりで最初は丹念に観察したり味わったりしていたが、気付くといつの間にか、ただ淡々とハシの上下運動を繰り返しながら、昨日の出来事をボンヤリと思い出している自分に気がついた。
ボーッとできる味。
初回ですらこの感じだから、何度も通っていれば、席に着いた瞬間にボーッとなり、流れ作業的に淡々とメシを食い、お会計を済ませることになるだろう。町中華の良さというのは、その辺にあるのかなあ。
帰り際、おばちゃんに何年ぐらいやってるのかと尋ねたら、「んー、もう40年ぐらい」とのことだった。