『名前のない餃子屋@田町』MCT(あきやまみみこ)

訪問日:2016年2月26日


最初に言いますよ。
すごく美味しい、トキメク餃子に出会ったのです! 今回。
ん〜今でもトキメク!
はやる気持ちを抑えつつ、順を追ってお伝えします。

そのお店は、JR田町駅を三田側へ降りた、慶応仲通り商店街にある。
人通りも多い。


そこに現れる、このイカツイ店構え。
真黒な壁とドア。赤い暖簾だけがヒラヒラと挑発的。
店名など、探してもどこにもない。
真ん中にドッカリと置かれた石が「ここからは入るな。入り口は横だ」と無言で言っている。
オイ、なんだ…このガンコさ滲み出る風貌は…。
お店に入る前からドキドキする。


外にはこのメニューのみ。
餃子定食を頼むしかないじゃないか。
餃子専門店てコトだな。 町中華じゃないけど、まぁいいじゃないか!
意を決してドアをガガガ…と開ける。

ほう〜なるほど、中はカウンターのみか。丸椅子が全部で8つ。先客が3人。
お客さんは、近所のOL、サラリーマンといった感じ。
そして厨房に居るのは…60~70歳代くらいの女性1人だった!
外観からてっきりガンコオヤジの店を想像してたので、お母さん店主にちょっと拍子抜け。
私は、入るや否や、早々に「餃子定食お願いしますー!」と元気よく伝えたのだが、
お母さんはすぐにはこちらを振り返らず、少ししてから
「ちょっと待って」
と言ったんだ。低いトーンで。
お母さんは、餃子を焼いてる作業中だったのだ。
私は、最近あまり接することのない愛想無さに、ドキ! として、
ああ、すみませんでした…と心の中で思いつつ、心の冷や汗をぬぐいつつ、
「はい」と小声でつぶやいて荷物やコートを壁に掛ける。

うーん、やはりなんだかココはひと味違うゾ。

空いている丸椅子に腰をかけて、改めて周りの様子を伺うと、
お客は皆さん、ただ前を向いて背中を丸め、黙々と餃子定食をむさぼっている。
もしくは携帯をいじっている。
会話は全くない。
BGMもない。
シーンとしてる。
壁は黒い。
店内にもメニューが貼ってある。が、外のとほとんど同じだ。
他に見る物もない。
お、なぜか店内に暖簾が下がっている。『中華料理』という、あの真っ赤な。
ふーん、外には『餃子』の暖簾で、中には『中華料理』の暖簾かぁ。
何か歴史がありそうだゾ。
元は旦那さんとやってた中華屋だったが、旦那さんに先立たれてからは、奥さん1人で餃子だけを出すようになったのかな…。

などと、勝手な妄想を抱いてたところ、ふと厨房のお母さんが近寄ってきて
「ヤキ?」
と訊いてきた。
とっさのことで把握できなかったり、聞き取れなかったりで、「はい?」と訊き返すと
「ヤキ?」
とだけ、また訊いてきた。
ああ、そうか! 水餃子か焼き餃子か訊いてるんだな。
「焼きでお願いします!」と返事すると、軽くうなずいて作業場へ戻って行った。
おお、いよいよ私の餃子が焼かれる順番が来たのか!
なんだかちょぴしドキドキして息が荒くなる。
お母さんの作業を見つめる。
ただパチパチと餃子を焼く音だけが響く。
このやり取りの間、お母さんに笑顔は全く無かった。

さて、ここからの待ち時間、このシーンとした空気の中、私はどうしたら良い?
えっと、餃子が出て来たら写真は撮りたいよな…と、自分の記録手順をシミュレーションしてみる。
そしたら、どうしても気になる事が出て来た。
シャッター音だ。
“カシャッ”というあのiphoneのデジタル音が、この張りつめた重い空気の中では相当大きく響くに違いない。その瞬間の惨事(ただ無言での圧)を想像すると、もう今すぐにでもお店を出たくなるほどあり得ない。
…そうだ、アレだ!
私は、久々にダウンロードというものをした。無音カメラのアプリを。
なんだか隠し撮り専用みたいで今まで気が進まなかったけど、ここはこれしか無い!

その間にも、厨房ではピピピピピとタイマーが鳴り、鉄鍋から餃子が焼き上がって、隣の人の目の前に提供される。
おお! 旨そうではないか!
横目で見つつ、無音アプリを無事ダウンロード。

無言で食べ終わった隣の男性は、小声で「美味しかったっす…」と、ほとんど吐息のような、歯のスキマから抜けるような、お礼をつぶやいて出て行った。
なんだ、そのカッコ良すぎるさりげなさは。
なんだ、そのジョーが真っ白に燃え尽きたようなアスリート感は!
しかしそれが、 この静寂の餃子屋に対しては礼儀のようにも思えてくる。

そして全てのお客さんが、食べ終えたお皿を、マナー良くカウンターに上げて返す。
みんなが、みんな、だ。

みんながみんな、お皿をキッチリ返し、小声でお礼をつぶやいて、コートの襟を立てて、1人で去ってゆく。
すごい、お店が無言でお客を教育してるかのようだ。

ガラララ…とドアが開いて、会社員らしき女性客が1人入ってきた。
「5人だけど、大丈夫ですか?」
外に数人いるらしい。
しかし、むむ、イスの空きは5コだけど、飛び飛びだよな…。
自分が席を移動した方が良いのか、内心ヒヤヒヤしていると、お母さんが言った。
「バラバラになるけど、いいの?」
女性客は「?」という顔でまた訊いた。
「5人だけど、入れますか〜っ?」
お母さんはまた言った。
「バラバラになるけど、いいの?」
そう、女性客は、お母さんにお客さんの席移動を促して欲しかったのだろう。 そしてそれが通じないと思ってか、女性客は無言で出て行った。
お母さんはそれで良いのだろう。
私もそれで良いと思った。
またお店に静寂が戻って来た。

そして、餃子は突然やって来た。
何度か『ピピピピピ』というタイマー音を聞いて、待ち時間も気になった頃、
「おまちどう」
と無表情で差し出されたお皿。
まずは白ご飯。昆布の佃煮が乗っている。
そして豚汁。お味噌汁に透けた大根や人参が浮かんでる。
やっと来ました! 餃子は6個。
思わず顔がニヤケる。
小ぶりでぷくっとした形が焼き餃子には珍しい。
早速、無音アプリで撮影。

よし、周りに何の影響も与えてない、成功。

早速1個、ぱくっと噛み切る。
すると『ピュー!』と肉汁が飛び出した。

机を汚すほどのジューシーな餃子。

そして皮はサクっともっちもち! 厚めでしっかりしていて、食べごたえがある。

餡は、ニラがたっぷりで香しい。エビも入ってるらしく、とっても風味が豊か。

この餡がしっかりめに味がついていて、クセになる味。

なんだか弾力があるんだよなぁ。
私はタレをつけずに残り全部いただいた。
何度も肉汁ピュー!ハフハフハフ…となりながら。


ああ、素晴らしく美味しかった…。
今までお店で出会った餃子の中で、一番だろう。(非販売の自家製除く)
それは、お店の雰囲気も相まっての評価なのか、と自問自答したが、イヤ、お店情報が無くとも、この餃子は今までで一番!
夢に出てくる餃子だ。
とても美味しかった。
私が食べ終わる頃、 また別の会社員風の女性が入って来た。1人だ。
その頃、店内のお客は私1人になっていた。
「いやぁ〜遅くなっちゃって。ゴメンネ、今から餃定焼き、できる?」
お母さんにため口をきく若い女性は、どうやら常連のようだ。
これからランチなんだろな。時計は13:20。張り紙には昼営業14:00まで、とある。

お母さんは、しばし「ウ〜ン…」と時計を見て

「まぁ……………………いいよ」
と特別に許したように言った。
え、ナニ、断る気だったの!?
え、まだ40分もあるじゃないですか!?
え、この人でランチ最後ですか!?
え、じゃ、私は最後から2番目だったんですか!?

たくさんの「え、」が頭を駆け巡ったけど、きっと14時にはお皿も洗い終えて、お店をキッチリ閉めたいのだろうな、と思い直す。たぶん夜の分の仕込みもあるだろうし。

ええそうですとも、お母さんくらい毎日ちゃんと、こんな美味しい餃子をおひとりで提供されてるとあらば、そりゃもうご自分のペースがあって当然ですよ。
思えば、お母さんは無愛想やぶっきらぼうではない。普通なだけだ。
職人気質を笠に着てイヤミを平気で言うようなコワモテなんかでは、決してない。
そもそもなんだよ、愛想というサービスを通常モードで期待してるのか、我々お客は。私は。それはやっぱりどうかと思う。
お母さんは、普通に丹誠込めて作ったものを、普通に精一杯提供してるだけなんだよね。
分かる、分かる気がするよ、お母さん。私も、なぜメールの語尾を「だよネ♪」にしたりして、イチイチ赤子をあやすようなことをせにゃならんのだ! と思う時もあるよ。
お母さんは、お客を赤子扱いしてない、まっとうなご商売をされてるんだと思いますよ。
…私なんかに言われたかぁないでしょうけど。へへへ。

そしてお店を出る時に、思い切って訊いてみた。

「表に店名が見当たらなかったんですけど、ここのお店の名前は何と言うんですか?」
するとお母さんは、こう答えた。
「ああ、名前はないの。“ 名前のない餃子屋”という名前で出てるらしいね、フフ」
初めてほんの少し笑ったところを見た。フワッとした。

後で検索してみたら、確かにwebでは“ 名前のない餃子屋”でログが出てくる有名店だった。
勢いに乗って「冷凍餃子のお持ち帰りってできますか?」と訊いてみた。壁にはそう書いてあるからだ。
「うーん、今は無いわ」

とのお返事。あれれれ。
「そうですか…じゃまた今度来た時にでも」と言うと、
「 今度ね…あるかな?」
と意味深な事を言われた。一見さんには売らないということだろうか。
「めちゃめちゃ美味しかったです。」
とさりげなく伝え(ここ大事)、店を出るとき何気に振り返ると、
「ありがとうございました」
と、お母さんはしっかりと私の顔を見て挨拶してくれた。
ドアを閉めてから、少しキュンとした。

ありがとう、ご馳走さまです。美味しかったです。
こんな人に出会えるのだから、また町中華探検に出たくなる。


今回、ソロではなく町中華探検隊としては久々の参加だった。
トロ隊長、マグロ隊員、竜隊員、半澤隊員、私の5人での、中華密集地帯(中密)探検で、1人ずつ気に入ったお店に入ったのだった。

下記、探検で外観だけ抑えたお店。(町中華、チャイナ、含む)

 

 ↑ココ、おもてに野菜が100円で売ってたり、お弁当が300円で売ってたり、1Fの食堂と2Fの中華が同じ経営だったり、外国人が客引きしてたり。フシギすぎる。
客引きの外国人(数人)が、持って来た試食をもらう。かぼちゃのサラダ。
なんかスパイス入ってて甘い味。甘すぎる。外国の味。奇妙。
誰か、お店のレポートをして欲しいもんです。興味はあります。

ABOUT ME
あきやまみみこ
あきやま・みみこ 京都出身、東京在住。デザインやイラストなど。ぬりえやお墓の本など出版。町中華探検隊オトメ部。アックス(青林工藝舎)で「塗れないぬりえを塗るんだぜ」描いてます。バンド「バナナシスターズ」「親戚」で、しりあがり寿presents(有)さるハゲロックフェスに出てます。