酢豚探偵の町中華備忘録 さよなら神田神保町の巻(おまけつき)

5月24日正午 神田神保町・岩波ホール前集合
参加者/北尾トロ、下関マグロ、半澤則吉、田中ひろみ、西谷格、竜超

もしや死ぬまで続くのでは? と思われた神田神保町詣も今回でついにラスト! 淋しさに胸を引き裂かれそうになりながら、ボクは集合場所へ向かったのであった(嘘)。都内は伊勢志摩サミットに向けたプチ戒厳令状態で、我々のような見るからに胡散臭い集団が町を歩いて捕まらないだろうかとやや不安だったが、トロ、マグロ、半澤、竜以外はまぁ堅気っぽい人たちなので、どうにかお縄は頂戴しないで済んだよ。

さすがに回り飽きたのか、マグロ隊員も大幅にコースを変更し、JR神田駅近くまで足を伸ばす。この日は夏日で、「今日はあんまり中華って雰囲気じゃないよなぁ」とトロ隊長。「ホントですねえ」とボクも同調するが、その後のセリフは真逆の方向を向いていた。
トロ「こういう日はあっさりした蕎麦でもツルツルッといきたいよ」
竜「こういう日は分厚いビフテキでも食ってスタミナつけたいっすねぇ」
ボクたちは、どこまで行っても異教徒同士である。

神田駅に近い須田町エリアまで来ると、ボクの脳内にはサラリーマン時代の思い出が様々浮かび始めた。じつはこの辺りの会社で15年近くも働いていたのだ。だから、「どこにする?」という話になった時、ボクは元いた会社の目と鼻の先にある「栄屋ミルクホール」という店を選んだ。この店は15年間ほぼ毎日見てきたのに一度も入ったことがなかったのだ。

見るからに古い店で、なんと昭和初期に流行した「銅版建築」の外観である。これは昨年末、マグロ隊員、半澤隊員と前を通りかかった際に撮った全景。

今回が2度目の探検となる、イラストレーターの田中ひろみ隊員と共に入店。「おじさんばっかりの店って感じで、ひとりだと絶対入れそうもない」と彼女は言う。1時近くなってたせいか、店内はガラガラだった。外観の古めかしさに反し、内装は新興住宅地の建売住宅みたいな感じにリフォームされていて、妙に明るかった。古さの名残はむき出しの配電盤くらいで、ブレーカーというより「ヒューズ」と呼ぶのがシックリくる感じ。看板には「軽食・喫茶」とあったが、すでに軽食も喫茶もなくなっていた。言うまでもなくミルクもないよ。

ボクは「冷やし中華」(950円)、田中隊員は「ラーメン」(650円)をオーダー。ラーメンは「正しい東京ラーメン」という感じで、見るからにアッサリ。ボクの冷やし中華は、富士山型に盛られた麺の山肌に様々な具が載せられた立体構造。正面から見ると不可視な側があるので、回転させながら撮影してみました。ヒヤチューの顔はひとつじゃないぜ! シナチクたっぷりなのが珍しい。チャーシューはしょっぱめでした。

食べ終わり、神田駅に向かう。油流し先を探していたら、田中隊員が「エースって店がありますよ」と。おお、エース! 名物の「のりトースト」で有名な老舗喫茶店ではないの! じつはここも何百回も前を通っているのに入ったことがないのであった。「エースにします」と連絡すると、マグロ隊員からは「おお、いいですねえ!」と返事があったが、トロ隊長は「わからん」と。仕方ないので、2人待ち合わせてきてもらうことにした。

「6人なんですが、入れますか?」と問うと、年配のご主人が席を空けてくれた。ソファに腰をおろし、「やれやれ」と。ボクはその日のサービスメニューだったコーヒーゼリー(480円)、ラーメンだけだと足りない、という田中隊員はコーヒーとのりトースト。一切れ分けてくれたのでありがたく頂戴す。初めて食べたが、パンの厚みとバターの塩気、海苔の風味がベストマッチで旨し。

それにしても、待てども待てども誰も来ない。6人用の席を2人で占有しているのは心臓に悪し。なんかボクらがとてつもなく社会性を欠いたモンスター夫婦みたいではないの。ハラハラしてたらトロ・マグロ両名がようやっと来た。さらに遅れて西谷隊員、もっと遅れて半澤隊員。2人は神保町まで戻って同じ店に入ったらしいが、西谷隊員はチャリ組なので早く来られたとのこと。しばらくダベッた後に解散す。

【おまけ】中華じゃないけど肉日記

最後の神保町探検の翌日、野暮用で10時に上野へ。地下道に、珍しい単行本の自動販売機があった。雑誌のだったら昔よくあったんだけどね。しかしサミット警備の一環という名目で使用できなくなっていた。コインロッカーなら話は分かるが、なんで本の販売機が???

用を済ませて時計を見ると11時。せかっくだから飯でもくうべとアメ横へ。肉マニアならみんな知ってる「肉の大山」へ入ろうと思ったが、すでに列ができてたので断念。ボクはどんなに旨いものでも並んでまで食いたくないのだ。

代わりに入ったのが「とんかつ かつ仙」という店。ほとんど誰もいなくて快適じゃ。

オーダーは「メンチカツ&とり唐」の定食(750円)。ご飯は、ランチタイムは大盛り無料だという。当然頼む。揚げたてのメンチカツはやっぱりいいねえ。肉汁はホドホドだが、無駄にダラダラしたたるのよりはこっちのほうがいい。みっちり肉が詰まってるぜ!

肉を食らったぜ~、という満足感を胸に店を出る。「揚げ物バカ」というのが自分につけたあだ名だが、上等じゃい! スタミナがついたので池袋まで散歩してから帰宅。揚げ物バカは歩きバカでもあったのだった。

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。