酢豚探偵の町中華備忘録 杉並区西荻窪の巻

4月16日(土)中央線西荻窪駅改札前正午集合
探検者/下関マグロ、竜超

竜超です。西荻にあるトロ隊長のマンション事務所が今月下旬で引き払われることとなった。そこで、不要になった本やCD、雑貨などの処分を目的としたガレージセールを開催するという。中野坂上の探検の時に「行きますよ」と言うと、マグロ隊員が「だったら、事務所による前に肉ラーメンに行きますか」と。

ににに、肉ラーメン? 生まれて初めて聞いた未知の単語に、肉族・関東アラフィフ代表のボクの心がざわめいた。「なんですか、それは?」と訊くと、マグロ隊員はニヤニヤ笑いを浮かべながら、「その名の通りの代物ですよ。竜さんだったら絶対に気に入ります」。そこまで言われて行かないわけにはいかない。ボクはガレージセールの当日、マグロ隊員と待ち合わせる約束をしたのであった。

そして当日、10時にボクは吉祥寺駅に降り立った。西荻に行く前に、こちらを散策することにしたのだ。吉祥寺も西荻も、80年代から街並みに極端な変化はない。マイナーチェンジはもちろんしているが、俯瞰から見ると、荻窪在住の学生時代のボクがウロウロしていた頃とあまり変わっていないのだ。

たとえばパルコの地下2階にある「パルコブックセンター」にいると、時おり意識がハタチ位の頃に飛ぶ。自分が一体いくつなのか、よく分からなくなるのだ。単に海馬が混乱しているだけかもしれんが。

吉祥寺にはブックオフの大型店もあるが、昔ながらの古本屋サンも頑張っている。こういうところも町中華同様、生き残りが難しいのだが、なんとかちょっとでも長く延命してほしいなぁ。

裏道を通って西荻へ。改札前でマグロ隊員と合流。商店街を抜けて、住宅街にひっそりと建つ町中華「ふくきや」へ。絵に描いたような「町内のラーメン屋」で、昔ならどこの町にも1軒はあったなぁ、という感じ。ほぼ地元の客だけで回っているのだろう、という感じ。あぁ、懐かしい。

土曜の正午すぎということで、客はボクらだけ。メニューを見ると、確かに「肉ラーメン」とある。ボクはそれを頼み、マグロ隊員は焼肉だか生姜焼きだかの定食(850円)をオーダー。

肉ラーメンは1000円で、ラーメン1杯の値段としてはちょっと高いんじゃないかな、という感じ。だが、その疑念は現物を見て吹き飛んだ。

これはまぁ、妥当な価格だよ。というか安い。牛焼肉、チキンソテー、チャーシュー、炙りチャーシュー(巨大)の4種がドカッとのっていて、麺もスープもよく見えない。肉をある程度食らわないと麺に届かないので、ボクは一心不乱に食べ続けた。

というかね、このラーメンのスープは果たして何味なんだろうか。肉のエキスがたっぷり溶け出しているので、それぞれのエリアで味が違うのだ。ひとつの丼内に4種のスープ。これはアレだ、ラーメン界のキメラだね。

肉も美味いよ。特にアンモナイトの化石のような炙りチャーシューが。ずっしり重くて、箸で持ち上げるのが大変だ。かぶりつくとトロトロ食感で香ばしい。ボクの中の思春期男子が大喜びだ。スープもしょっぱくなく、肉のダシがよく出ているので、ついつい完飲してしまった。一体どれくらいだろう全部を飲み干したのは。ひょっとすると数十年ぶりかも知れない。

マグロ隊員の定食も美味しそうだ。上品な小鉢料理もついていて、なかなかのものと見た。ラーメンも定食も供されるまで割と時間がかかったのだが、マグロ隊員によれば、それは肉ラーメンの支度に時間がかかるからだという。なるほど確かに丁寧な仕事だもんな。そして肉ラーメンは採算ペースギリギリの価格設定であるため、みんなが頼むと店が苦しくなるのだそうだ。さもありなん。

13時、トロ事務所へ。ドアの前にはこんな看板が。

中へ入ると床一面に売り物が並んでいた。

当初はなかなかお客が来なかったが、1時間くらい過ぎたあたりから増え始めた。1冊1冊の値付けはなく、一山いくらの勘定。それもトロ隊長の気分次第なので、稀覯本とかでない限り、限りなくタダに近いプライス。そこへホントにタダなCDや雑貨、トロ著作などが加わるのだから、来た人はお得である。購入者は、使いきれなかったレポ封筒や山田うどんグッズなどももれなくオマケに付けてもらい、ホクホクだった。いや、ホクホクだったと思いたい。

ボクも結構買わせてもらったが、それでも1500円。色んなレポ関係者が座っていたスツールも貰った。マグロ隊員が帰った後も、残った人間で雑談。やがてトロ隊長の家族が到着したので、我々は退散。リュックと手提げがすでに本でパンパン状態なのに、頭がアレなボクは付近の名古書店「音羽館」に立ち寄ることに。そこでさらに数冊買いこみ、パンパンガさらに超パンパンへと膨張。「こんなンだからいつまで経ってもウチは広くならねえンだよ」とブツブツ言いながら帰途に就いたのであった。

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。