昼は1時、夜は8時開店の時間差営業店「湖州軒」@松本


<松本シリーズ第1弾>
松本城の近くにある「湖州軒」を訪ねた。
地元の知人が結成した「食い支えの会」は、松本の大衆的な食堂が姿を消す前に食べておこう、一日も長く営業してもらおうという主旨。この日が初の活動で、おっかなびっくりの入店であった。というのもこの店、昼は13時ごろから、夜は20時ごろからの変則営業。夜は飲み屋になっちゃってるんじゃないかと思った次第である。
が、そんなことはなく普通にやってた。71歳の店主がひとりで切り盛りしているため、煩雑な時間帯は避けているようだ。常連客はついているので宣伝しようなんて気もなく、やれる分だけやっていこうという方針らしい。
聞けば、店主は18歳で東京に出て2年間修業し「地元に戻って来いと言われ、修業したとも言えない技術しかなかったが渋々」(店主談)松本に帰り店を開いたという。昭和40年のことである。
この年は東京オリンピックの翌年。高度成長の時代だったからこそ、二十歳の若者が見よう見まねで始めた店でも繁盛したのだろう。以来51年間、餃子とラーメンを主力とした店はつぶれることなく命を保ち、地元に根付いた。
我々はビールと餃子2人前を頼み、ついで麺類を注文。スーラーメンの評価が高いとの前評判だったので僕はそれにした。5人中、3名がスーラーメン、2名がラーメン。追加でエビチリ2人前。餃子小さめ10個入り600円、エビチリ一人前1100円はやや高い。
厨房は丸見えで、ただしガス台が向こう向きのため、親父さんの背中越しにしか見えないが、とにかく手が速い。ひとりでやっているかからこその無駄のなさ。親父さんは少し腰が曲がっているのだが、中華鍋を持つ姿勢が固まってしまったようにも見える。
スープがうまい。麺はやわやわだった。デザートにりんごとバナナをサービスしてくれた。
また行こうと思う。

ABOUT ME
北尾トロ
北尾トロ(きたお・とろ) 1958年、福岡県生まれ。法政大学卒業。裁判傍聴、古書店、狩猟など、体験をベースに執筆するライター。『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』『猟師になりたい!』シリーズなど著書多数。長野県松本市在住。