酢豚探偵の町中華備忘録 またも神田神保町の巻

5月17日12時15分 神田神保町・岩波ホール前集合
参加者/北尾トロ、下関マグロ、半澤則吉、中西庸、大田洋輔、西谷格、竜超

竜超です。またしても探検エリアは神保町で、読んでる人も「なんかの間違いじゃないか」と思うかも知れないが間違いではないのである。神保町アタックはもうあと1回続くそうなんでヨロピク。

探検当日は朝から雨。町中華探検日が雨になるのは意外に少なく、記憶しているのは昨年の築地アタックと四谷アタックの時だけだ。いつもより集合時間が15分遅いのは所沢からはるばるやって来るトロ隊長から「ちょいと遅れる」との連絡があったからである。

雨降りなので屋根のある地下鉄出口で待っているとマグロ隊員がやって来た。町中華単行本のことなど話しながら待っていても誰もやってこない。「はて?」と思っていたら、半澤隊員から「待ち合わせ場所にいます」とのLINEが。もしや・・・と思って見に行くと、律儀にも雨の中で半澤、中西、大田、西谷らが傘をさして立っていた。真面目だなぁ。キミらも五十路に入るともうちょっとズルできるようになるよ。

ほどなくトロ隊長も到着し、「どうするか?」との話になったが、さすがにもう同じところを回るのは飽き飽きだ。ということで、前回までとは若干違うルートを行くことに。やむ気配のない雨の中、最年少でも三十路半ばというオッサン集団が神保町を行く。天候によるムシムシ感にむさ苦しさが加わって不快指数はかなり高そうな集団である。

回り終わって、「さて、誰がどこへ行く?」という話になった。ボクが選んだのはファサードに「洋食 中華」、暖簾に「とんかつ」と書かれた「三好弥(みよしや)」という店である。季節の変わり目であるこの時期は乗り切るための体力を要するので、肉をガッツリ食っておきたいところだ。当初は別の店へ行く予定だった中西隊員も予定を変更してこれに乗り、ボクらは三好弥へ向かった。

さっき覗いた時には誰もお客がいなかったのでタカをくくって行ったら、予想に反して満席。仕方なくボクらはバラけてサラリーマン客と相席。ここは静かな店で、最初に中西隊員が扉を開けて「2人なんですけど」と言ってもホールを仕切る老女将(というかフツーのおばあちゃん)はノーリアクションでややビビった。

当初は「とんかつ+中華麺+洋食の何か」というプランを立てていったのだが、いざメニューを見ると中華も洋食もなかった。そこにあるのはとんかつメニューと生姜焼きなどで、要するに「とんかつ屋」に転身していたのである。なので「カツ丼、カツカレー、とんかつライス」と、とんかつ三連発を頼んでシェアすることに。3人前を頼んだら、おばあちゃんはビックリした様子だったが、静かなる店に大食い人間は不似合なのかもしれない。

奥のテーブル席が空いたので移動。ほどなく3品が揃ったよ。

そして臨戦態勢の中西隊員。

これが「カツ丼」(620円)。「THE町中華のカツ丼!」といった感じの味わいで、初めて食べたのに「懐かしい」と感じてしまったね。

これが「カツカレー」(620円)。カレーはやや甘めで、いわゆる「町中華のしょっぱくて粉っぽいカレー」ではない。「サラッとした洋食屋のカレー」である。福神漬けだけでなく、ラッキョウも添えられていたのが嬉しいね。

これが「とんかつライス」(670円)である。よく見れば皿に「MIYOSHIYA」と店名がローマ字で記されていて、「洋食をやってた頃の名残かなぁ・・・」とふと思った。一緒にデーンとマヨネーズの大型ボトルも置かれた。やっぱこれがなくっちゃねぇ。お上品な店では決して期待できないサービスである。欲を言えば薄切りレモンが1枚付いてたらもっと嬉しかったね。

とんかつは、厚みはないが肉が柔らかく、いやな脂っぽさもない。高齢層の客が多いのはそのせいか? いや、最初は「昼12時台にガラガラの店ってヤバくないか?」みたいなことを話していたのだが、それはたまたまエアポケット状態だったときに当たっただけの話のようで、実際は客が切れ目なく訪れる人気店だったようだ。いや、近所だったらボクも通うかもしれない。安いわりに味はまぁまぁ美味しい。全品に味噌汁がついてきたが、これも素朴な味で「町の食堂」といったイメージだ。

互いに「半分食べてはパスし」というのを繰り返したら、あっという間に完食。上品な盛りの店なので1人前半を食べてもまだ腹6分目といった感じ。中西隊員もそんな感じでは? と思った。ちなみ同じ大食いでもボクと彼は弱冠タイプが異なる。たとえば「おかわりセルフ」の定食屋に行った際、ボクは「2杯目に3杯分のライスを圧縮して入れ、2度のお代わりで実質5杯分食う」のだが、彼は「誇らしげに4回お代わりをする」そうだ。ボクは中西隊員と違って周囲の目を気にするのだが、これは母親から「食いすぎ!」と四六時中指摘され過ぎた結果だろうか。

ボクらが一番早く食い終わったかと思っていたのだが、大田隊員から「サクラホテルに先に行きます」との連絡が入る。早っ! そちらへ向かう途中、ちょっと先にマグロ隊員、西谷隊員がいるのを見かける。が、黙って尾行したほうが面白そうなんであえて声はかけず。

サクラホテルに着くと、大田隊員が1人でテラス席にいた。彼が異様に早かったのは、料理がすぐに出てくるうえ、客に「食後に一息つくゆとり」を与えてくれない店のムードがあったそうだ。有名老舗店だが、店主の老齢化によって全盛期とは味がかなり違っているという。「旨いものにこだわらないところが町中華探検の妙味です」と老婆心ながらアドバイス。

マンゴージュース(250円)を買って席に着く。ほどなく、同じ店に行ったトロ隊長と半澤隊員が合流。皆で今日の首尾を報告し合う。ボクが「洋食と中華はすでに消えていた」と話すと、トロ隊長から「消えた理由をなぜ訊いてこないのか」とムッとされた。あー、そうか。そこには全然思いが至らなかったなぁ。ボクは変わってしまったものには「ふーん」以上の感慨が湧かないのである。

しばらく話し込んで油流しはお開きに。帰り際、傘立てに刺していたマグロ隊員らの傘がパクられていたことが判明。聞けば、中西隊員はパクられそうになったのを間一髪のところで防いだという。ボクは最初から手から離さなかったので大丈夫だったが、油流しも気を引き締めてやらないとイカンようだ。世知辛いなぁ・・・と思いつつサクラホテル近くで解散。

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。