新高円寺から五日市街道沿いに徒歩15分。成田東三丁目「三久」。成田東地区は広く新高円寺から南阿佐ケ谷をまたいでいるが、この三丁目は最寄り駅で徒歩15分かかる奥地で少し先には善福寺川緑地の原生林が広がりのんびりとした東京らしからぬ雰囲気がある。
お店のある五日市街道沿いはさながら「道の駅」という風情で近所にサミット、コープ、パン屋や肉屋が密集している。「三久」はこの辺り唯一の「町中華」として重宝されているようだ。カウンターとテーブル三つで10名程が入れ替わり立ち代り来店。見渡すと事務や作業着姿、老人、昼ビールとやきそばを楽しむ初老男性の姿がある。角田光代似の娘さんらしい中年女性がホール、老主人が一人で目まぐるしく背中を丸めて中華鍋を振る。店内は使い込まれてはいるが清潔に保たれている。ぼくの座るカウンター段上には木彫りの熊の背が入れ物になり卵が積んであるのが微笑ましい。
コックスーツのような調理服を着ていたり、隣の客が食べている生姜焼き定食にはオレンジやスパサラが添えてあるところを見ると主人は洋食も経験されているのだろうか。備え付けの固定メニューに目をやる。全て値段の上に紙が貼られ50円値上げされた形跡。やはりかなり長い歴史のある店なのだと感じる。末長く頑張って欲しい。ライス類のところに炒飯650円とあり、離れた定食類のところにはエビ入り炒飯750円と書いてある。エビ入りになると「定食」にカテゴライズされるとは。焼きそばはあんかけ焼きそばと「上海焼きそば」。見た目は紅生姜の乗ったソース焼きそば。昼ビールの男性は綺麗に紅生姜を残し完食。分かる、その気持ち。ぼくは紅生姜いらない派、ましてや「上海」ならば。気になったメニューは目玉焼きライス、ナス生姜焼き定食。まさかナス自体の生姜焼きではないだろうな。
注文したラーメンと餃子が到着。仕事は早い。ラーメンはセオリー通りの麺柔め鶏ガラとおそらく豚骨と少し生姜の効いた美味しいラーメンだが醤油の塩辛さはなくやや品のある薄味で好みだ。もう一品食べられる感じ。餃子はネギ、ニンニクが効いて脂のジュースがジンワリと溢れる小ぶりタイプ。周りを見渡すと注文の人気は餃子、あとは麺類、チャーハン、焼きそば、生姜焼きに分かれている。生姜焼きは腕前のバロメーターだが隣の客のそれは外はこんがり焼き目が付いているが肉汁や脂が溶け出して見るからに(上)だ。最後に千切りキャベツやスパサラを絡めたいと思わせる。
(絵と文) 目黒雅也 イラストレーター