酢豚探偵の町中華備忘録 荒川区町屋の巻

3月11日(金)京成電鉄「町屋駅」正午集合
探検者/北尾トロ、下関マグロ、瀬川陣市、竜超


竜超です。今回もまた「町屋」という、初めて足を踏み入れる町での探検なのである。「町中華探検」という明確な目的がなければおそらく死ぬまで一度も降り立たないであろう「他人の関係」の町だ。金井克子の町だ。金井克子はウソだ。それはサテオキ、ボクにとってはこういうところがMCT(町中華探検隊)に参加する最大のメリットである。いつも新たな発見があるし、驚きが見つかる。

例のごとく「現場直行」は避け、ほどほどに離れた「JR三河島駅」で降りて散歩を楽しむことに。けれども町屋駅への道は店らしい店もあまりなく、ちょっと淋しい気持ちになる。気が付いたら「♪あなたを~さがして~ここ~まで~きたの~」と、西崎みどりの名曲「旅愁」を口ずさんでいた。ペーソスあるシチュエーションになると、ボクは無意識にこの歌をうたってしまうのだ。ビョーキだろうか。

町屋への道にはあまり面白そうな店はなかったが、「面白そうな犬」ならいたのでパチリ! 「花とゆめ」ならぬ「花といぬ」である。ガラス越しに撮ったせいか面白いフィルター効果が発生し、なんか油絵みたいな写真になった。神様ありがとー!

やがて明治通り(環状5号線)に出た。道なりに歩いていたら町中華があったので写真を撮ったが、なんか見覚えがある。よくよく見たら、昨年末に来た「光栄軒」だった。なんだ、イイ店が近くにあるんじゃないの。これといった町中華がなかったら、ここで食えばいいじゃない。そんなことを思いつつ、町屋へと急ぐ。

町屋駅にはほどなく着いた。町屋には待ち合わせ場所である「京成線」の駅のほか、「地下鉄千代田線」と東京最後の路面電車である「都電荒川線」の駅もある。荒川線は正確には「停留所」だが。まだ少し時間があったので、付近の古本屋を覗いた後、駅周辺をチェック。たこ焼きをせんべいに挟んだ「たこせん」の店がいくつかあって、駄菓子マニアとしては思わず財布を出しかけるが、「イカン! これから中華を食うのだ」と自分に言い聞かせて我慢す。

やがて待ち合わせ時間になった。改札前の地図を見ていると、背後から「あの人が有名な竜超さんです」という聞き慣れた声が。振り向くとマグロ隊員が例のごとくニヤニヤしていた。マグロ隊員の知人である新入隊員、瀬川さんを紹介される。今回は瀬川隊員のタイムリミットが「1時間」とのことなので、トロ隊長がまだ来ていないが最初の店を観に行く。そこはチャイナ・・・なのかな? 餃子メインの店であった。「時間がないので、もうここにしちゃいましょうか」とフザけたことをフザけた顔でマグロ隊員が言ったので、ボクと瀬川隊員は「フザけんなよ」との思いを込めて「いやいやいや、さすがにそれはないでしょう」と。

駅に戻ると、トロ隊長からLINE連絡。なんか「地下鉄町屋駅」の出口にいるんだそうだ。そこに向かってトロ隊長と合流し、探検開始! 地元情報筋からの口コミを参考にしつつ、数店をめぐる。最後に目指したのは「地元情報筋イチオシ店」であったが見つからない。ウロウロしていたら「缶入りラーメン自販機」があったので、「ま、今日は最悪これでもいいかな」とふと思ったりして。

と、他の3人の「あったどー!」の声が。「路地の奥の路地」みたいな袋小路のいっちゃん奥でヒッソリ営業していたそこは「らーめん吾妻」という店らしい。「あまり時間もないことだし、今日はココにしとこう」とトロ隊長。OKでーす。

「らーめん吾妻」は5人掛けのカウンター席と、2人用テーブルが2つだけという、「コジンマリ」を絵に描いたような店だった。「コジンマリ・オブ・コジンマリ」の東京大会なら余裕で上位入賞できそうなコジンマリぶりだ。我々は二手に分かれ、テーブル席に着く。メニューには酢豚もあるが1700円とお大尽プライスなので頼まず、「焼肉ライス」900円也をオーダー。

このお店、スケール的には「コジンマリ」だが、内装は「赤」が基調で、かなりのエナジーを感じる。切り盛りしているのは年配のご夫婦のみ。トロ隊長との会話によって、67歳のご主人の料理人キャリアは半世紀にわたることが分かった。九州で働いていたこともあったが、30年ほど前に町屋で開業したんだそうだ。以前は近所に店舗を借りて営業していたが、還暦を過ぎたあたりで「無理をしないで済む程度の規模」へと商売を縮小し、現在のコジンマリ店舗になったという。手首を傷めて中華鍋を振れないので、「中華店ながら炒飯はやっていない」のだそう。

「跡を継ぐ人間もないので、ほどほどのところで店をたたむ予定」と言う御主人。まさにMCTが「記録しておくべき町中華」と捉えているタイプの店である。外見こそ儚(はかな)げだが、いざ入ってみると「あと50年は大丈夫そうだぜウリャッ!」みたいな店に当たることも結構あるので、今回は本来の使命を全う出来て良かった。トロ隊長が「知り合いから、ここに絶対入ってみろと勧められて来たんですよ」と言ったらご夫婦そろって喜んでくださったんで、さらに良かった。

店を出て、駅前の「サンマルクカフェ」で油流し。田町の同店で「プリンマンゴーパフェ」を食ったので、今回は「プリンアラモード」をオーダー。だが入ったのが「喫煙席」で、そこはお通夜のような雰囲気だったので、喋りまくる我々は浮きまくりもいいトコだった。いいかげん居づらくなったので、タイムアップで離脱する瀬川隊員と共に外へ出る。

瀬川隊員と別れ、我々は油流しパート2に。近くに個人経営の喫茶店(名は失念)があったので入る。メニューを見たら、何のパフェだか分からないけど「パフェ」とあったので、トイレに立ちながら「パフェを頼んどいてください」とマグロ隊員にお願いする。

その後、立東舎からトロ&マグロ&竜の共著で初夏に出す予定の「町中華単行本」の打ち合わせ。アレコレ話しているとパフェが来た。何のパフェかよく分からんのだが、「柿」がのっていたのが斬新。町屋、あなどれじ。打ち合わせをひと通り終えたところで店を出て、山手線の「日暮里駅」まで歩くことに。途中、トロ隊長のおごりでたい焼きをかじる。ボクはたい焼きは麻布十番の「浪花家総本店」風のカリカリ系が好きなんだが、ここで食べたフンワリ系はなかなか美味かった。

日暮里駅前で徒歩帰宅のマグロ隊員と別れ、我々は山手線で帰途に。なんか今日は「パフェ→パフェ→たい焼き」と甘味が続き、町中華探検というより「ケーキバイキング」といった風情だったなぁ。こんなら「たこせん」も食っときゃ良かったよ、と今頃思っても手遅れなんですけどね。

ABOUT ME
竜超
1964年、静岡県生まれ。『薔薇族』二代目編集長。1994年よりゲイマガジン各誌に小説を発表。2003年より『月刊Badi』(テラ出版)にてコラムを連載。著書に『オトコに恋するオトコたち』(立東舎)『消える「新宿二丁目」――異端文化の花園の命脈を断つのは誰だ?』、『虹色の貧困――L・G・B・Tサバイバル! レインボーカラーでは塗りつぶせない「飢え」と「渇き」』(共に彩流社)がある。